2013年3月18日刊行
佐々木 中
『夜を吸って夜より昏い』
河出書房新社

定価:1,890円 本体価格:1,800円
166頁 978-4-309-02166-9 C0093
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絶賛の声 続々!
不穏なまでに美しい言葉。これは危険な小説だ。
いっそ燃やしてしまうべきなのである。 —— 豊﨑由美

見える文字の奥に、不可視なコトバが潜む。
夜の昏さの彼方にしか光は無いが、確かに光があることを、
この作品は教えてくれる。 —— 若松英輔

夜 々 夜 話  via. @AtaruSasaki :Twitter

今日から「夜々夜話」と題して、3.18に刊行される新刊小説『夜を吸って夜より昏い』について夜にツイートしていきたいと思います。今回に限って何故?この小説が、なぜ哲学者であるはずの佐々木が小説を書かなければならなかったのか、その理由が一番はっきりあらわれていると思うからです。...2013年3月9日


夜々夜話①
本当は「津軽弁小説」にしたかった。津軽詩人高木恭造氏らの詩も研究した。が、そうすると読めないのです。残念ながら。帯文の「兄様イ、……」は、津軽人しか抑揚が響かないはず。この科白しか津軽弁は出てきません。関西の人はいいよなあ。 ...2013年3月9日


こんな感じで『夜夜』についてお話していきたいとおもいます。明日は10日、抗議行動の日ですから、それにあわせて内容について踏み込んだツイートを。そして、次の「文藝」に載る小説は逆手を取って京都弁とびかう小説だったりします。お楽しみに!...2013年3月9日

夜々夜話②
『夜を吸って夜より昏い』は、今までの僕の小説とはかなり違います。誤解を恐れず端的に言うと、「反原発抗議行動小説」なのです。なぜそれを「小説」にしたのか?現実の行動ではなく、小説に?それは後々。...2013年3月10日


夜々夜話③
『夜夜』は、災厄の最中、自分は間違っているのではないかと不安に駆られたことがある全ての人に向けて書きました。過っているかもしれない、しかし賭けるしかない。という、小説です。それは、間違いを書いてはいけない論文ではできない事。...2013年3月12日

私は間違っているのではないか。あの日以来、そんな思いをつのらせる昏い夜を持たなかった人がいるでしょうか? 自らの無力にすべてを捨て消え果てたくなるあの瞬間を迎えなかった人は? 『夜を吸って夜より昏い』は、その夜について書かれた本です。...2013年3月12日


夜々夜話④
実は賢三は、源造という名の僕の津軽の祖父の面影を宿しています(その姿は『九夏前夜』で描写しています)。津軽の女たちが僕をそっくりだと言った祖父。そういう人に、「ああいうこと」をさせてしまった小説ということです。...2013年3月13日

歌舞伎が好きで芸者をあげてばかりいて越路吹雪のファンだった粋な祖父は68で死んだ時8人の子どもと4人のお妾がいた豪気な遊び人で、全然及ばないですが。念のため。
...2013年3月13日


夜々夜話⑤
そんな弟、賢三がある行動を起こす。それが「衝撃の結末」になるわけです。これは誰にでも賞賛されるような「正しい」行いではない。現実に起こったら、僕も批判するだろう。非常に強いショックを受けるだろうけれど。
...2013年3月14日

ただ、その行動は誰もがあの日から一度は駆られた思いに根ざしている筈。深い失望と無力感、自分は間違っているのかという苦しい思いに。だからこそ「あやまち」を書ける小説でなくてはならなかったということです。
...2013年3月14日


夜々夜話⑥
まさかと思いますが、念のため。「反原発抗議行動小説」とは言え、単なる勧善懲悪ものでは全くありません。反原発デモや抗議に参加しない人を非難するものでもない。もっと万人に開かれた小説です。夜々夜話の前のツイートをご覧ください。 ...2013年3月15日

あの日からどんな人にも「迷いの夜」があったと思うのです。自分は一体正しいのか、正しかったのかと問う疑念の夜が。ある大会社の初老の幹部に、東電を見ていて会社って何のためにあるのか判らなくなったよ、と吐露されたこともあります……。 ...2013年3月15日

彼は会社とは経営者のためでも株主のためでも従業員のためでもなく、市民社会そのもののためにあると実感した、と述懐していました。彼にもまた、迷いの夜があったのではなかろうか?『夜を吸って夜より昏い』は、そういう人達にも向けて書いた小説です。 ...2013年3月15日


夜々夜話⑦
厳密に言えば、「左翼的」な小説ですらないのかもしれません。実際、ある人物の行動は「考えはどうあれ、行動そのものは右翼っぽい」と感じる人もいるかもしれない。危険な行為だ、とも。だから、小説でなくてはならなかった。 ...2013年3月16日

ある文学史上の事件と、その元になったといわれる事件を思い出す人もいるかもしれませんね。書いているあいだは全く意識してなかったのですが。 ...2013年3月16日


夜々夜話⑧
『夜を吸って夜より昏い』は、あの2012年6月29日、約20万人を集めた金曜官邸前抗議の場面が直接出てきます。つまり、あそこにいた「あなた」が、この小説の主要な登場人物として出てきます。克明に、描写しています。 ...2013年3月17日

それだけではない。あの闇に浮かび上がる星雲のような人々の光りの群れをテレビ等で見て、衝撃を受けた人、感動した人、苛立った人、不快に思った人、焦燥にかられた人、すべての人々がこの小説には書かれています。あの夜の「あなた」は、この小説のなかにいます。 ...2013年3月17日


夜々夜話⑨
衝撃の結末、を持つこの小説、実は自分でもこうなるとは全く思っていませんでした。まさか、と思い出したのは165枚の小説の140枚を越えてから。僕はそういう書き手なので、小説を起動するのに大変苦労します。物語を全く決めていないから。 ...2013年3月18日

だから、小説を起動する冒頭に負荷がかかる。最初の12頁くらいまでは、読者の皆さんはキツいかもしれない。僕もキツかった(笑)賢三が登場すると楽になるので。しかし僕の小説は、最後まで読んで冒頭に立ち返るとその冒頭が奇妙な仕方で全体を預言するものになっている。自分でもいつも驚きます。 ...2013年3月18日


夜々夜話⑩
書かれていない「謎」は、実は膨大にある。賢一、賢三、朋実の関係だけでも、多分8割方は書かれていない。しかし、それは著者の僕の想定にすぎない。それを超える読解がありうることこそ、小説の醍醐味です。ぜひ愉しんでみてください ...2013年3月20日


夜々夜話⑪
実は旧作にもすべて政治的含意がありました。恋愛小説という惹句とのズレがあからさまになった『晰子』が典型で、あれも恋愛小説としても読めるようになっているだけ(晰子が書いている論文の内容を参照)。それと比べて、今回はかなりはっきり克明に打ち出せたかと思います。 ...2013年3月28日

逆に言えば、『夜を吸って夜より昏い』を読んでから旧作を読み返せば、また違った読み方ができるかもしれません。 ...2013年3月28日


夜々夜話⑫
"終夜、拠るところもない夜の辺なさに因る 片寄る、偏る、ゆえに身ごと揺る、選ることも出来ず言い寄る、そして儚く消える便る、頼る、こともなくなる、また夜、だ。"

帯文で推薦して下さった沼野氏に、いまRTした『夜夜』の冒頭は凝り過ぎでは?と時評でご忠告頂いたのです。が、実はこれ、彼が文体を絶賛してくれた前作『晰子』の自己引用(ヒップホップの常套手段)なのです!……ちなみに続く一文は、晰子が論じている詩人の詩句から。 ...2013年4月2日

もちろん、沼野氏に限らず、誰かをひっかけてやろうなどと思っていたわけではありませんよ、念のため(笑)『晰子の君の諸問題』のほつれのような部分から、『夜を吸って夜より昏い』という一見全くかけ離れて見える小説が生み出されていく過程は、苦しみましたが、スリリングでした。 ...2013年4月2日

ああ、ここまで韻で遊んだのは『夜を吸って夜より昏い』の冒頭「だけ」です。このまま延々続くわけではありません。というか、そんなことできない(笑) ...2013年4月2日


夜々夜話⑬
今回の関西行きで、『夜を吸って夜より昏い』(河出書房新社)もその次の「らんる曳く」(『文藝』掲載中)も読んで下さっていた円城塔さんに「最後まで読めば誰でもわかる親切な小説を書くようになったね」と言われました。確かに、最初の十数頁を越えればあとは楽なはずです。 ...2013年4月13日


夜々夜話⑭
僕の小説は何ら筋を決めずに、ある漠とした言葉の連なりを置いて、その言葉自体の力に導かれて書き進めるという意味では即興的です。が、ジャズやヒップホップにかぎらず即興音楽が殆どそうであるように、そこには前もって厳密なルールがある。ジャズならコード進行、ラップなら韻のような。 ...2013年5月1日

続。同様に僕の小説にも厳密なルールがある。語彙の選択やルビの振り方、リズム、語尾、古語漢語の利用から「内容上こういうことは書かない」と言った様々なレベルで、だいたい20くらいのルールが。これはトークライヴで豊崎由美さんや古川耕さんに語ったとおり。 ...2013年5月1日

続。だから僕の小説は理論的な構築性だけ、あるいは法則なき即興性だけに依拠したものではない。『夜を吸って夜をより昏い』が特別であり、読者にも好評なのは、言葉自体の力が導く即興が遂に、処女作以来の、即興自体を生み出す不可侵のルールのひとつを破壊してしまったからではないかと思います。 ...2013年5月1日

続。法則あってこそ湧き出でる即興性それ自体が、その掟のひとつを破壊してしまう。この書き方が、ありえるか判らない世界を求めてこの一身を賭ける、というこの小説の政治性と固く結びついています。ぜひ。
http://www.atarusasaki.net/book_nuit.html ...2013年5月1日

続。『夜を吸って夜より昏い』において、どのような掟が破壊されたかは、これ一冊でも最後まで読めばなんとなくでも判ります。以前からの僕の小説の読者には、もっとはっきり判る。
http://www.amazon.co.jp/dp/4309021662/ ...2013年5月1日